奄美大島伝統発酵食品『ミキ』

かつて祭祀の際に作られていた奄美大島の『ミキ』

『ミキ』はもともと神にささげるお神酒のことであり

その起源は口噛み酒と伝えられています。


口噛み酒のとは年若い女が米を口に含み

二噛み三噛みほど噛んだ米を混ぜて作った酒のことです。


平家の方々が稲作を伝えたとき

奄美諸島の人々は米は食べるものという

認識を持てなかったので平家の方々は生米を

噛み砕いて見せたと言われています。


名瀬市大熊で行われるミキ作りは祭の前に各戸から集めたうるち米を

製粉機で粉末にして大鍋で炊き生のさつま芋をすりおろし米粉と混ぜ

「マナガン」と呼ばれるピンポン玉ほどの大きさの団子を作ります。


冷ました粥にマナガンを入れデンプン糖化をさせ

それを甕に移し入れ芭蕉の葉で蓋をし

翌日の祭でみなに振る舞う風習があります。


かつては祭の前々日に作る「三日ミシャク」と呼ばれるものが主流で

3日間神棚の前にお供えして発酵を待つということからこの名称で呼ばれています。


月上旬のフユウンメ(里芋や山芋などの収穫祭)や

奄美大島の瀬戸内町ではクガツクンチ

(旧暦9月9日に前年の願いを切り今年の願いをする祭り)

などの主な祭のときに各集落で作られてきた

琉球で生まれた古の文化です。


昔はミキの原料としてその土地土地で入手可能な

米粉、さつま芋、粟、椎の実など様々なものが使用されていました。

ミキは極めて珍しい発酵食品で多くの研究者が注目してきたそうです。

米、大麦、小麦などの穀物が栽培されるようになり

近世以降の食生活でさつま芋も主食として受け入れられたことで

その糖化力を見いだし『ミキ』の材料に使用したと言われています。


生さつま芋に含まれる消化酵素β−アミラーゼとデンプンの働きによって

麦芽糖(マルトース)という水飴の原料と同じ糖質に変化します。

その天然糖質をベースにして発酵した乳酸菌と食物繊維、

酵素を多く含む発酵食品がこの『ミキ』という発酵食品です。

自然のまま発酵させるその製法は日が経つにつれておいしくなります。


奄美諸島でこうした『ミキ』が作られるようになったのは

さつま芋が渡来した17世紀以後の比較的新しい時代と考えられています。


美しい海に囲まれた奄美の島々は誠にのどかで魅力の多い土地。

しかしここも時代の移り変わり共に過疎化が進み

以前のような活気と受け継がれてきたが伝統と文化も

失われつつある現実に直面しています。


鹿児島県最南端に位置する奄美諸島は本土文化と琉球文化の境界線上にあり

東アジアの発酵食品の伝播経路としての文化もとても興味深いが

かつては生活の一部であった多彩な発酵食品づくりも

食や生活環境の急激な変化とともに伝統文化も失われつつあり

今では祭祀の際にミキが作られるのは奄美大島と加計呂麻島などの

ごく一部の地域になってしまっているようです。